だれもがみな褒められ足りていない。だからこんなにも憎しみや嫉妬が世の中に溢れているのだろうか。もっと互いに褒め合えばいいのに。でも実際は貶しめ合い、嫉妬し合い、辱め合う人間ばかり、みたいな世の中のように感じる。
どんな物事も、ムズカシイと思うとやってみれば案外カンタンで、カンタンだと安易に考えていると実際はとてもムズカシイものだ。もし今ぼくらの目の前にあるナニカが、あたりまえのような顔をして存在しているのなら、そのナニカはカンタンに生まれたもののようでいて決してそうではなく、きっと誰かによって練り上げられたムズカシイ仕事の成果なのではないだろうか。だれかの創意工夫や苦心の果てに人間の行為の文脈に沿った合理的なモノに仕上げられたからこそ、なんらの違和感を感じさせることもなく、また大きな存在感を放つ理由もなく、そのナニカはそこに平然とあるのだろう。
だれに気づかれることもなく、まして褒められることもなく、それでも静かに淡々と、良い仕事をしてきた人たち。そういう口数の少ない人たちによる良い仕事のおかげで今というときがつくられている。そのことに感謝すること、そのような仕事をする自分であろうとすることは、やさしいことではない。